第176話 幼い贄(6)

「いいわ……イッても……イッてもいいわ……」
留美が「の」の字を書くように腰をうねらせると健一はついに崩壊する。命じられもしないのに「い、イキますっ」とその瞬間を告げる言葉を口にして、下半身をブルブル震わせる美少年の姿を、「かおり」のフロアを埋め尽くした観客は言葉をからかいや野次も忘れて見入っているのだ。

一番手である健一の舞台が終了し、金髪の少女はマスクもウィッグもとらないまま退場する。留美と思われる少女の正体が明かされなかったことに、新人奴隷であるPTA役員たち、特に山崎奈美は安堵の吐息を漏らす。留美がまだ、健一や里佳子のように性の奴隷として扱われている訳ではないこと、すなわち今夜の行為は留美が自らの意志で参加した可能性があることが分かったためである。
だからといってそれは決して許されることではない。新顔の奴隷たちは怒りと、それ以上に恐怖のせいで一様に身体を震わせていた。加藤家や小椋家同様、香織は自分だけでなくその家族まで狙っていることが明かになったためである。
ステージ上の小椋裕子も、金髪の少女が東中の生徒、おそらくは新たに香織たちの奴隷に堕とされたPTA役員の娘の誰かであることに気づいており、改めて香織の執念の深さに慄然とする思いだった。平和な家庭に対する香織の不条理なまでの憎しみはいったいどこからくるのだろうか。自らが育って来た家庭環境、または営んで来たであろう結婚生活によほど大きな問題があったのか。
池谷昌子と長山美智恵が再びステージに上げられ、たった今童貞を失ったばかりの健一の後始末をさせられている。昌子と美智恵は、史織に指示されるまま健一の肉棒を舌と唇で拭う。青臭い健一の精液と、少女L――山崎奈美の破瓜の血の味が二人の人妻の舌を刺す。必死で感情を殺して舌で清めていた昌子の口の中で、健一の肉塊が持ち主の意志を裏切ってムクムクと膨張していく。
「あっ……」
昌子がうろたえて口を離すと、健一の半勃ちになったそれがぶるんと跳ねる。その滑稽な様子を見た史織が甲高い声で嘲笑する。
「まあ、まだまだ元気じゃないの」
史織はそう言うと楽しげに笑い、健一の肉棒を指先で弾く。
「このおば様たちとやってみたいの? 健一」
健一は嫌々と気弱に首を振る。その様子は健一の中性的な姿態とあいまって、まるで少女が拗ねているような風情を見せている。昌子と美智恵が同時に顔をさっと赤らめるのを見て、史織は楽しそうに笑う。
「でもそれはしばらくお預けよ。ここでお前の妹やガールフレンドが処女を散らすのをよーく見ていなさい、いいわね?」
史織はそう言いながら健一を後ろ手に縛った縄尻を取って、舞台から降ろす。
健一は小塚美樹や荏原誠一、桑田、村松たち東中関係者が集まるボックスに連れ込まれる。早速男色趣味のある村松が全裸の健一を膝の上に抱き上げ、身体中に接吻を注ぎ込む。誠一によってすっかりホモセクシュアルの悦びを叩き込まれている健一は、体育教師の荒々しい愛撫にたちまち巻き込まれ、熱っぽく喘ぎ始める。
健一にかわって小椋里佳子と加藤香奈が舞台中央に引き出される。沢木が操作するスポットライトを浴びた二人の美少女の姿がくっきりと浮かび上がる。
セーラー服の上衣のみを身につけた里佳子の無毛の恥丘に取り付けられた金色のリングがライトの光をキラキラ反射させている。一方の香奈は里佳子の隣でうっすらと生え出した若草のような陰毛をフルフルと慄わせている。
「続きまして東中の二大美少女、小椋里佳子と加藤香奈による処女喪失ショーの開始です!」
香織のアナウンスが店内に響くと、里佳子と香奈は改めて身体をぶるっと震わせる。
先程自らの口で淫らな自己紹介を行ってはいるものの、改めて東中の生徒と紹介されると、もうどこにも逃げ場はないのだという絶望感が改めて2人の美少女の胸を締め付けるのだ。
(二人同時にショーを演じさせようとでも言うのかしら……)
里佳子は自分と香奈が改めて並ばされた意図を訝しむ。
(里佳子さん……)
香奈は哀しげな表情を里佳子に向ける。里佳子は香奈を勇気づけるように頷いて見せる。
(香奈ちゃん、メソメソしていても惨めになるだけ。こうなったら開き直るしかないわ)
里佳子は唇をぐっと噛んで、母親譲りの意志の強さを示す目を前に向ける。先程の「少女L」の大胆さが里佳子の胸に闘志に似た感情を湧き起こしていた。
しかし香織は、そんな里佳子の健気な決意をも吹き飛ばすような趣向を整えていたのである。
「それではこれら美少女の処女を奪う栄誉を授けられた男2人を紹介しましょう」
ステージ脇から黒田と沢木に縄尻を取られた二人の男が入場すると、「かおり」の店内にいっせいにどよめきの声が起こる。昌子や美智恵は「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。
二人の男は全裸を後ろ手に縛られ、革製の目隠しと耳栓、そして猿轡を施されている。男たちの陰茎はすでに血管を浮き立たせるほど勃起している。
黒田と沢木は楽しそうに手に持った鞭で男の尻をピシピシ叩き、視界も聴力も奪われ、口を利くことも許されない男二人を舞台中央に誘導し、里佳子と香奈の間に立たせる。
奇怪な姿の男たちを訝しげに見つめていた舞台上のしのぶと裕子の目にほぼ同時に衝撃の色が走る。
(あれは……)
裕子は息を呑む。顔は隠しているが間違いない。夫の小椋道夫である。そうするともう一人の男は……。

しのぶは裕子とは違い、二人の男の正体を同時に気づいている。二人ともしのぶと夫婦、または夫婦同様の関係にあった相手である。一人は夫の加藤達彦、そしてもう一人は裕子が気づいた通りしのぶが現在香織によって疑似夫婦の関係を強制されている小椋道夫である。
(でも、どうして達彦さんがここに……)
しのぶはパニックで真っ白になりそうな頭を必死で巡らせる。達彦が「かおり」で酔った弾みで、史織に対して悪戯したことがその後の一連の悪夢のような出来事の発端となった訳だが、当の達彦はずっと嵐の外側にいたはずだ。
いつの間に達彦が香織の手に落ちていたのか――。そこでしのぶは、ここのところ香織たちによる調教の後でも家に帰ることは許されず、香織のマンションの一室で道夫と強制的に夫婦生活を送らされていたため、達彦とほとんど会話を交わしていないことに改めて気づく。
知らないうちに、小椋家同様自分たちも家族ぐるみで香織たちの奴隷になっていたのだ――しのぶは目の前に改めて突き付けられた現実に愕然とするのだ。
舞台上では向かって左から小椋里佳子、加藤達彦、小椋道夫、そして加藤香奈の順に並んでいる。史織が白いレースのベールを持ち出すと里佳子と香奈の頭に被せる。
「お前達二人は今夜、この男たちの花嫁になるのよ。いいわね」
里佳子と香奈は何かとてつもなく恐ろしい行為を強制されようとしていることに気づき、蒼白になった顔を嫌々と力なく左右に振っている。そんな二人の美少女の裸の尻に、史織の鞭が飛ぶ。
「ああっ!」
「い、痛いっ!」
細鞭で何度も尻を打たれ、里佳子と香奈はステージの床に膝を突いて悶える。
「一度は覚悟をしたことでしょう。往生際が悪いわよ」
史織は床の上に跪いている里佳子と香奈に言い放つ。

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