71.地獄巡り(9)

「おらっ、誰が泣けと言った。ちゃんと最後まで続けんかいっ」
熊沢は怒声を上げると珠江の尻を思いきり平手打ちする。ぴしっという痛快な音が座敷に鳴り響き、珠江の白い尻の肌に熊沢の手形がくっきりと記される。
先程「乱暴はあかん」と義子の尻打ちを止めた熊沢が人が変わったように珠江に折檻を加え始めたのを、美紀と絹代は呆気に取られたような顔で見ている。
熊沢もポルノ業者まがいの商売をしているとはいえ根はやくざであり、そんな風に怒りを見せると美紀や絹代などの世間を知らない人妻たちを脅えさせる程度の迫力を見せるのは容易であった。
二度、三度と豊満な双臀を打たれた珠江はついに屈服し、命じられたせりふを繰り返す。
「――折原珠江、31歳の、ちょ、調教済みのお尻の穴でございますっ」
珠江の珍妙な挨拶に平田と大沼、そして銀子、義子がどっと哄笑する。絹代たちの前で究極の恥を晒す情けなさに耐え兼ねた珠江は、わっと号泣する。
「よし、よし、よく言えたな。褒美にいいものを食べさせてあげようやないか。たっぷりとな」
急に猫撫で声になった熊沢が、珠江の肩を抱くようにしながら、しゃくり上げる珠江を慰めているのだ。硬軟の手管を駆使しながら珠江を翻弄する熊沢を、久美子は慄然とするばかりだった。

素っ裸のまま両肢を露わに開いた珠江に、熊沢がまるで蛭のようにとりついている。熊沢は手に半分皮を剥いた極太のバナナを持ち、珠江の秘所に呑み込ませようとしているのだった。
「ああン、もう、お腹が一杯ですわっ」
限界まで呑み込まされた果実を、さらに奥に挿入しようとする熊沢に、珠江は嫌々と、かすかに腰を揺らせるのだった。しかし、そこにはもう熊沢に対する抵抗は見られず、むしろ甘えるような媚態さえ見られるのだった。
美紀と絹代はそれぞれ平田と大沼に肩を抱かれ、恐怖に身を縮めるようにしながら珠江の悲惨な姿から目を逸らし、肩を小刻みに震わせている。久美子だけは二人の盾になるように熊沢の傍らで、珠江の演技に必死で目を向けているのだ。
(こんな……こんなことって……)
葉桜団の義子とマリから静子夫人をモデルとした卑猥な写真や、京子と美津子が主演するポルノビデオのチラシを事前に見せられていた久美子は、拉致・誘拐されている女性たちがどんな目に遭っているかについて、ある程度心の準備はできているはずだった。
しかしながらセックスの経験がない久美子の事前の想像と、目の前で展開されている生々しい現実の間には大きな開きがあった。
「まだまだ、遠慮することはないがな。奥さん」
「あっ、そんなっ……もう駄目っ」
「よしよし、そこで一度じっくり味わうんや。ゆっくりと噛み締めるようにするんやで」
熊沢の言葉に珠江は催眠術にかけられたように、バナナを包んだ花弁をゆっくりと収縮させる。
「どうだ、美味しいか?」
「――ええ、お、美味しいですわ」
頬を赤く染めてこっくりとうなずく珠江から立ち上る色気に熊沢は陶然とした気分になりながら、肉付きの良い珠江の臀部をつつく。熊沢はいったん珠江の秘所からバナナを抜く。
「こんどはこっちの口にも一緒にたべさせてやるからな」
「――、嫌っ、そんなっ、無理ですわっ」
「こんなに立派なケツをしておいて、無理なもんか。3、4本はたべられるんやないか」
「ああ――、ひどい方」
珠江はさも恥ずかしげにうつむく。
「どや、やってくれるんやな」
熊沢がそんな風に迫ると、珠江は「――一本、一本だけですわよ。よろしくて?」とさも恥ずかしげに答える。
「よし、よし、今用意するからな。バナナはちょっと固めでまだ青いくらいのがちょうどええな」
ほくほくとした顔付きでバナナを選び、皮を剥き始める熊沢に珠江は「く、熊沢さん……」と呼びかける。
「なんや、奥さん」
「お願い、お酒を飲ませていただきたいわ」
「そうか、酒に酔って羞かしさを忘れようと言うんやな。まあええ」
熊沢は空のコップを傍らの久美子に突き出す。
「おい、何をぼんやりしているんや。酌をせんかい」
「は、はい……」
久美子は慌てて一升瓶を手にすると、熊沢のコップに酒を注ぐ。
「なんやこのお嬢さんはさっきから妙に恥ずかしそうにしてるが、えらい純情なんやなあ。銀子から聞いた話とはだいぶ違うようやが。SMプレイに興味津々の不良娘てことやなかったんかい」
熊沢は緊張に手元を震わせている久美子に皮肉っぽい視線を投げかける。
「いわゆる耳年増ってやつよ。実際のプレイを見たことがないから緊張しているだけよ。そのうち調子が出てくるはずよ」
義子と互いに酒を注ぎ合い、多少酔いの回ってきている銀子が口を挟む。
「その娘、ちょっとサドっ気もあるから、珠江を責めさせてみても面白いで」
やはり上機嫌になっている義子がそう言うと、熊沢は「それは確かに面白そうやな」とぎょろりとした目付きを久美子に向ける。
酒を注がれたコップを手にした熊沢は、改めて珠江ににじり寄る。
「ほら、奥さん。口移しで飲ましたろやないか。こっちを向かんかい」
熊沢は片手で珠江を抱き寄せると、コップ酒を口に含む。すっかり身を任せた珠江の花びらのような口に、熊沢は分厚い唇を押し当て、酒を流し込む。
「う、ううっ……」
まるで網にかかった蝶を捕らえた蜘蛛が毒液を注ぎ込むようなその光景に慄然とした久美子は思わず目を伏せる。コップ一杯の酒を飲み干した珠江の白い肌ははやくもほんのり桜色に染まり始めている。
「そろそろええか、奥さん」
「まだ、まだですわ……」
珠江は酔いに潤んだ瞳を熊沢に向けながらぎこちなく媚態を示す。
「もう一杯、飲ませていただけます?」
裸身を軽く悶えさせ、そう言いながら誘う珠江に熊沢は有頂天になる。熊沢は焦り気味にコップに手酌で新しい酒を注ぐと、再び珠江を抱き寄せる。
「ああ……」
珠江は自棄になったように積極的に振る舞い、熊沢と熱い接吻を交わす。妖女を思わせる珠江のその姿を呆然と見つめていた久美子は、ふとあることに気づく。
(珠江さんは時間稼ぎをしている)
ここに絹代、そして美紀と久美子がいる意味――おそらくは自分たちが拉致された美女たちの救援者であることを聡明な珠江は理解しているのだ。また、唯一珠江と面識のない久美子自身が救援者の中心人物であることも想定しているだろう。
誘拐者が単純に獲物の数を増やしたのであれば、当然のごとく千原流華道の家元夫人である絹代の正体は明かされていることだろう。銀子や義子がそうしない理由――それは彼女たちの単なる悪ふざけに過ぎないのだが――珠江はそれをまだ自分たち救援者の正体が露見していないと考えているのかもしれない。

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