「ああ……そ、そんなこと……悪魔だって絶対に考えつかないわ……恐ろしいことだわ」
「あら、今頃気づいたの?」
銀子はおかしげにくすくす笑い出す。
「お嬢さんたちにとって私たちは悪魔か、地獄の鬼みたいなものよ。奴隷になるということはその悪魔と鬼に身も心も捧げるということなのよ。この田代屋敷が別名地獄屋敷と言われているのはそのせいよ。さしずめ田代社長や森田親分は地獄の閻魔様、鬼源さんはその名の通り鬼の元締めみたいなものよ」
「そ、そんな……」
久美子はしきりに首を振る。
「かつては遠山財閥の令夫人だった静子夫人が、この屋敷に連れてこられてからどんな経験をさせられたと思う? 夫のある身でありながらまずは遠山家の運転手だった川田さんに犯され、そして田代社長と森田親分に抱かれたのよ。その上、浣腸、剃毛、衆人環視の前での立ち小便とありとあらゆる責めを受けたわ」
「コンビの相手もすさまじいわよ。ここにいる鬼源さんの調教で京子に桂子、それに小夜子に珠江との同性愛の契りを結んだ。本番ショーの相手は薄馬鹿の捨太郎に黒人のジョーとブラウンよ」
「娼婦として取らされた数え切れないわ。岩崎親分に遠山家の顧問弁護士だった伊沢先生。酔いどれ医師の山内先生。遠山老人しか知らなかった静子夫人がこの屋敷で、堂々たる奴隷娼婦に変貌を遂げたのよ」
「な、何てことを……」
久美子はあまりのことに歯軋りをして口惜しがる。
「それもこれも最初に桂子が誘拐された時、久美子のお兄さんが静子夫人と一緒に身代金受渡しの現場に出向いた時に、油断してよそ見をしていたせいで夫人を私たちにさらわれたことがきっかけじゃない。山崎の妹としてちょっとは責任を感じたらどうなの、ええ、お嬢さん」
銀子はそう言うとくい、くいとテグス糸を引く。
「あっ、ああっ……」
久美子の喉から喘ぎ声が洩れる。しかしそれはもはや苦痛を訴えるものではなく、被虐的な官能の高ぶりを甘えるように告げるものだった。
「お兄さんの失態を挽回しようと乗り込んだ京子も、静子夫人の救出を焦ったせいで私たちに捕まった。それから先は芋づる式よ。京子の妹の美津子、美津子の恋人だった文夫とその姉の小夜子、さらに静子夫人が後援していた千原流華道の美沙江と珠江が次々に森田組の奴隷になっていった」
「挙句の果ては今回の囮捜査の大失敗。お兄さんを信頼して協力した美紀夫人や絹代夫人までが性の奴隷にされることになったんじゃない。あなたたち兄妹が失敗の責任を取って、他の奴隷たちの負担が少なくなるように身を粉にして働くのは当然だと思わない?」
久美子は脳乱する頭の中で銀子の言うとおりかもしれないと考え出す。今の自分にできることは進んでこの身を地獄の鬼たちの生け贄として差し出し、他の奴隷たちの責め苦を少しでも軽くすることしかないのではないか――。
「あら、随分お尻の穴が柔らかくなってきたみたいだわ」
銀子は久美子の菊花を調教している鬼源の手元を覗き込むと、くすくす笑い出す。
「この分だとじきにピンポン玉は卒業出来そうだぜ」
それまで真剣な顔付きで久美子の肛門を拡張していた鬼源がニヤリと顔を崩す。
「それはいいわ。そうなれば、お兄さんのチン○をお尻の穴で受け入れても平気になるわよ」
「くっ……」
久美子の胸は羞恥、恐怖、そして屈辱といった感情で満たされる。しかしその一方で久美子の中には、もはや自らの運命から逃れることは出来ないのではないかという諦観めいた感情が湧き上ってくるのだった。
女奴隷になることを誓った自分はもう、主人である森田組や葉桜団の人間の言うことには逆らえない。兄に抱かれろと命じられたら素直にそうせざるを得ないのではないか。それが惑乱の中で久美子が到達した心境だった。
そういう視点に立つと、久美子の前に今まで目にしたことのない、いや、見たとしても気づくことはなかったであろう新しい風景が開かれていたのである。
「女奴隷になったからにはいずれは処女を散らさなきゃならない日が来るのよ。お嬢さんもそれは分かるでしょう? そのお相手がやくざの男や、実演ショーの男役者だったとしても久美子は文句はないの?」
銀子はそんなことを囁きながら久美子の乳房をまさぐり、テグスで吊られている花芯をやわやわと揉み上げる。
「うっ、うっ……」
燠火のようにくすぶっていた久美子の官能は再び、呆気ないほどの速さで盛り上がる。もはや糸吊りにされている花芯も、ピンポン玉を押し込められている菊花も、久美子にとってもはや苦痛を与えるものではない。それは一体となって、久美子を新たな被虐の地平へと導くための指標のようなものだった。
「京子は川田さんに、小夜子は津村さんに処女を散らされたわ。千原竜家元のお嬢さんなんて、岩崎親分の弟の時造さんに純潔を捧げたのよ。それに比べればお兄さんが初めての相手なんて幸せな方よ。お嬢さんにとっては気心も知れているし、尊敬するお兄様なんでしょう?」
久美子の身体全体がカッと熱くなり、下腹部がブルブルと小刻みに震え出す。
「わ、わかったわ……」
まともな思考も不可能になった久美子は熱に浮かされたような口調で同意する。
「お、おっしゃるとおりにいたします」
「本当? お兄さんに抱かれると約束するのね?」
「約束します――」
久美子がはっきりと頷いたのを見た銀子は鬼源と顔を見合わせ、ほくそ笑む。
「それならこんなふうに誓うのよ。いいわね」
「は、はい……」
久美子はもはや自らの意志は完全に奪われたように、銀子に強いられるまま屈辱の誓いを口にする。
「く、久美子は来る二日後……岩崎親分様を迎えるショーの席上で、あ、兄に、処女を……捧げることを誓いますわ」
「良く言えたわ」
銀子は満足そうに頷く。
「ご褒美に糸を思い切り吊り上げて上げるわ。お嬢さんのクリトリスを限界まで引き伸ばして、お兄さんをびっくりさせてやりましょう」
「ああっ、銀子さんっ」
久美子は切羽詰まったような声を上げる。
「どうしたの、いまさら怖じけづくなんてお嬢さんらしくないわよ」
「ち、違うのですっ」
久美子は首を振る。
「久美子を思い切りお仕置きしてっ。何もかも忘れるまで責めて、責め抜いて欲しいのですっ」
自棄になったようにそう叫ぶ久美子に、銀子は一瞬驚いたような顔になるが、すぐにニヤリと笑うと鬼源と顔を見合わせ笑い合う。
「お嬢さんがそんな気持ちになるのをこっちも待っていたのよ」
銀子はそう言うと滑車を操作し、久美子の花芯を引き抜くほどの勢いで糸を引く。
「ヒイっ!」
下腹部に激痛が走り、久美子は傷ついた獣のような悲鳴を上げる。
「どう、お嬢さん。きついでしょう。ちょっとは緩めようか?」
「い、いえっ、構いませんっ。もっと、もっと吊り上げてっ。馬鹿な久美子に思い切りお仕置きをしてっ」
「ふん、わかったわ。これでいいのね」
「ああっ、あっ!」
銀子がさらに糸を引く。久美子の腰部は一本の糸に吊るされた格好で持ち上がり、断末魔のような痙攣を示している。久美子の花芯はまるで赤く熟したグミの実のように充血し、はちきれんばかりに膨れ上がっているのだ。
「お、おい……銀子」
さすがに鬼源が限界とみて、銀子を制止する。銀子も当惑気味に頷くと、
「このまま一日中吊られっぱなしになっているのよ。いいわね」
と久美子に声をかける。
しかし久美子は口の端から泡を噴きながら激痛に耐え「もっと、もっと吊り上げてっ。久美子にもっときついお仕置きをしてっ」と譫言のように繰り返しているのだった。
138.無条件降伏(10)

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