139.懊悩の限界(1)

 久美子が二階のホームバーで鬼源と銀子による徹底した責めに完全な屈服を示し始めたころ、同じ階の奥座敷で行われている京子、美津子、小夜子、そして文夫の四人に対する調教も佳境に入っていた。
指揮しているのは葉桜団の副首領、朱美であり、これにホームバーを抜けてきたマリと義子が助手として加わっている。
「このあたりで一休みしようか」
朱美が声をかけると、マリと義子が「はーい」と同時に返事をする。奥座敷には素っ裸の四人の奴隷たちが発する淫臭とむっとする熱気が立ち込めており、葉桜団の女たちはそろって下着姿になっている。
淫靡な珍芸と同性愛プレイを延々と強いられた四人の奴隷たちもまた裸身にじっとりと汗を浮かべ、がっくりと首を垂らしたままハア、ハアと喘いでいる。
葉桜団の三人の女たちは喉の渇きを潤すため、備え付けの冷蔵庫から瓶ビールを二、三本取り出して栓を抜き、グラスに注ぎあう。
「乾杯!」
ズベ公たちはガラスのコップをカチンと鳴らし、一気に飲み干す。
「はあ、一仕事した後のビールは美味いで」
義子がそう言うと、マリが「何をオヤジみたいなこと言っているのよ」と突っ込む。
「いやあ、ここ何日かはずっと休みなしやから、ほんまにきついわ。たまには新宿にでも繰り出してぱっと羽目を外したいわ」
「今そんなところに顔を出したらそれこそ飛んで火に入る夏の虫ってやつよ。もう少しの辛抱よ」
マリはそう言うとちらと均整の取れた裸身を喘がせている京子の方を見る。
かつて恋人だった山崎を捕まえて、目の前に引き立てたら京子はいったいどんな顔をするだろうか。そんなことを考えるとマリは残酷な期待感が身体の中に湧き上がり、背筋がぞくぞくするような悦びを感じるのだ。
「しかしこの部屋は暑いね。何とかならないかね」
玄人っぽい紫の下着姿の朱美はそう言うとタオルを手に取り、首筋に垂れる汗を拭う。
「ビールを飲んだら急に汗が吹き出して来たよ」
「なんや、川田はんが空調がおかしいみたいなことを言ってたけど」
白い下着を身につけた義子もタオルで額を拭いながら応じる。
「岩崎親分がやって来るまでに修理しておかないと、とてもじゃないけど使えないよ。客がぎっしりと入るからね」
ピンク色の下着姿のマリがぼやく。
「この時期はあまり外部の業者は呼びたくないよねえ。屋敷中が裸の女で一杯だし」
朱美はそう言うと部屋の中央で大きく肩を上下させて喘いでいる全裸の京子と美津子、そして小夜子たちの方を見る。
「井上さんが後で様子を見に来るそうだよ」
「あの人、カメラ以外の機械のことがわかるんかいな」
「同じようなもんでしょ」
「そらあ、だいぶ違うと思うで」
マリと義子がそんなことを言い合っている。
「まあ、この部屋が使えなきゃあ、庭の土蔵でやればいいんだけどね」
朱美がそう言うと義子とマリが「えーっ」と不満そうな声を上げる。
「あそこ、この前時代劇ショーで使って以来、ずっと掃除してないで」
「ショーの準備でへとへとなのに、この上、蜘蛛の巣払いの仕事まで増やされたんじゃたまらないよ」
朱美がうんざりしたように「掃除は竹田や堀川たちにやらせりゃいいよ。あの連中、他に出番がないんだから」と言う。
「それが、そうでもないみたいやで」
「何かあるのかい?」
義子とマリが朱美の耳元に代わる代わる囁きかけると、朱美は「へえ」と言って眉を上げる。
「そいつは面白いじゃないか」
「朱美姐さんもそう思うやろ?」
「そう言う義子の方が楽しみにしているんじゃないかい?」
「ばれたか」
義子はペロリと舌を出す。
「ああいう渋いタイプの男を一度徹底的に責めて見たいと思てたんや。捕まえたらヒイヒイ泣き出すまで思い切りチンチンしごいたる」
義子の言葉に朱美とマリがどっと笑いこける。
「しかしそうなったら、京子がどんな顔をするかが楽しみだよ。自分のかつての恋人が奴隷にさせられるんだから」
マリはそう言うと奥座敷の中央で天井から垂らされた鎖につながれてハアハアと荒い息を吐いている京子の方をちらりと見る。
「ちょっとマリ、声が大きいで」
義子が慌ててマリを制止するとマリは「こいつはしまった」とおどけたように肩をすくめる。
「しかし、そうすると京子と美津子の姉妹は二人とも、恋人が奴隷になるんだね」
朱美はそう言うと「かえって京子の美津子に対する負い目はなくなるかもしれないね」と呟く。
「そう言えば朱美姐さん、京子と文夫に白黒ショーをさせることはもう二人に伝えたの?」
「いや、まだだよ。午前中は珍芸ショーとレズショーを仕上げるのに手一杯だったからね」
京子の空手で鍛えた引き締まった肉体はこの田代屋敷で女にされ、様々な調教を受けたためか、すっかり女らしい曲線を示すようになっている。そんな京子の野性味と官能味の同居した身体と、文夫の均整の取れた中にも姉の小夜子に似てきめ細かい肌をした中性的な身体が絡み合うのはさぞ見物だろうと、三人のズベ公たちは今からわくわくする気持ちを抑え切れないでいる。
美津子が文夫に対して依然として思慕の念を抱いていることは明らかだし、小夜子もまた、姉弟でコンビを組まされるようになって以来、文夫に対して血を分けた弟ということにとどまらない感情を持ち始めているようである。
実演ショーの裏側でそんな、三つ巴、四つ巴の愛欲の感情が渦巻いているということが、よりショーの価値を高めることになるのだと、三人のズベ公は改めて思うのだった。
「ただ単に二人ずつ組ませるのもいいけど、四人が乱行みたいに絡み合う方がおもしろいんじゃない? 朱美姐さん」
「そうだねえ」
マリの提案に朱美は何事か考え込むように首を捻っていたが「ところでさっきの話、森田親分も本気なの?」と声をひそめてマリにたずねる。
「本気だと思うわよ。さもなければバラすしかない、なんて言っていたもの」
「そんな荒事、森田組のガラじゃないと思うんだけどね。岩崎一家の手前、無理しているんじゃないのかね」
「そこまではわからないけど……でも、これでうちらもあの探偵に悩まされることはなくなる訳だし」
「あいつはあれで結構、顔が広い男だって聞いているよ。厄介なことにならなきゃいいけどね」
朱美はそう言うと義子に注がれたコップの中のビールをぐいと飲み干す。
「それと、あんまり岩崎一家に肩入れするのもどうかと思うよ。軒を貸して母屋を取られるなんてことにならなきゃいいけどね」
「朱美姐さんは岩崎一家と組むのには反対なんか?」
義子が朱美にたずねる。

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