第175話 幼い贄(5)

次に避けなければならないのはしのぶ自身と健一の近親相姦である。しかしこれもしのぶは同様の理由でないだろうと考えていた。
すると残る健一の相手は小椋家の誰か、裕子、貴美子、そして里佳子のいずれかとの組み合わせである。しのぶはどの関係もあり得るだろうと思っていたが、その中ではおそらく裕子か貴美子ではないかと予想していた。確かに里佳子と健一の組み合わせというのは分かりやすい。しかしながら香織に、お互いに慕いあっていた二人の思いを叶えさせるという慈悲があるとも思えない。それに二回楽しめる童貞と処女の喪失ショーを一度に実施してしまうというのも計算高い香織らしくないと考えていたのである。
出来れば相手は貴美子が良い、としのぶは勝手に期待していた。自分と同じ母親という立場にある裕子を健一が抱くのは釈然としなかったのである。それはしのぶの裕子に対する嫉妬に似た屈折した感情だった。
しのぶや香奈でも、また小椋家の三人でもない少女の登場はしのぶにとって意外ではあったが、相手が香奈や裕子でなかったという点でしのぶはやや安堵したした。しかしながらやはり愛する息子の童貞が他の女に奪われるのを見せつけられることに対しては、しのぶは穏やかではいられなかった。

小椋裕子はどうせなら里佳子は健一と結ばれた方がよかったという思いの一方で、娘の処刑を一時延ばされたような束の間の安堵感に浸っていた。
(しかしこれで、里佳子の相手が分からなくなった……香織はいったい、里佳子を誰と組み合わせるつもりなのか)
里佳子はいまだ処女ではあるが、レズビアンの美樹によって十分に性感を開発され、また倒錯的な露出の快感も早くも知覚するようになってきている。
C級奴隷として香織のサディズムを身をもって体験している裕子はしのぶとは違い、香奈と健一という兄妹相姦の組み合わせも十分あり得たと考えている。
(香織が健一君を、里佳子や香奈ちゃんと組み合わせなかったのは、そうすることで里佳子と香奈ちゃんのどちらかが余るのを避けたからでは……)
そして新たなる責めの布石を打つため――裕子はこれまでの経緯から、健一の上に素っ裸で跨がり、腰を上下させている少女が、新たに加わった女奴隷たち、四人のPTA役員のいずれかの娘に違いないと確信していた、
(それに、自分やしのぶさんがただ見物人として立たされているだけですむとは思えない)
香織が何かとんでもない背徳的かつ残酷な趣向を用意しているのではないか――裕子はそんな不気味な予感に脅え、裸身をぶるっと震わせるのだった。

飯島他のA工業の教師たちのボックスで、敦子と順子の間に座らされた小椋貴美子は二人のレズビアン教師からふくよかな乳房を揉まれたり、交互に接吻を施されながらステージに目を向けている。妹の里佳子の処女喪失の刑は一時延期されたものの、健一との組み合わせがなくなったことは里佳子にとって決して喜ぶべきことではないと貴美子は危惧している。
妹の身を案ずる一方で、貴美子は同時に里佳子が早く処女を失い、自分と同じように奴隷の境遇に堕ちてしまえばいい、というような倒錯した願望を抑え切れないでいる。
(私だけが……惨めすぎるわ……)
胸に満ちあふれるような希望とともに入学した大学の授業にも、最近はろくろく出席出来ていない。その代わりに貴美子に与えられたのはA工業高校の用務員兼野球部の奴隷マネジャーとして、正直に言って軽侮の対象でしかなかった偏差値の低い同校の不良学生や教師たちに奉仕を強いられる日々である。
何人もの野球部員の生臭い精液を飲まされ、ケツバットの仕置きに苦痛に喚き、校内で露出狂のような格好で過ごさなければならない。貴美子のプライドはいまやズタズタに引き裂かれ、一人で抱えるには重すぎるほどの苦しみの中にいたのだ。
すべての元凶は母親の裕子の軽はずみな行為にある。友人である加藤しのぶの苦境を救おうという動機に発したもののようだが、そのために自分の夫や娘までも危機に陥れてよいものではない。
そのとばっちりを貴美子は今、自分だけが過大に受けていると感じている。毎日のように飯島や野球部員たちの手で物理的な暴力を加えらている貴美子から見ると、いまだ処女である里佳子に対する責めはまだまだ甘いように思えたのだ。

健一の当て馬として使われた池谷昌子と長山美智恵はステージから降ろされ、女体盛りにされている岡部摩耶とともに少女Lと健一の凄惨な本番行為に恐れと驚愕の混じった視線を向けている。
彼女たち3人の新人奴隷にとってショックだったのは、この淫らな舞台に、中学生と想われる新たな出演者が登場したことである。
加藤香奈と小椋里佳子はすでに舞台に登場しているため、新たな登場人物――少女Lが加藤家や小椋家の人間であることはあり得ない。ではそれはいったい誰なのか?
3人がいっせいに予感し、そして恐れたのはそれが自分の娘ではないかということである。昌子は中学2年になる娘の瑞江、美智恵は同じく中2の一人娘の瞳、摩耶は中1の娘、沙耶の顔と身体と、舞台上の少女のそれを頭の中で必死に比較する。そしてほぼ3人同時に「違う……」とため息をつくような声を上げ、安堵の表情になる。
それならあの少女は一体誰なのか。3人は誰からともなく残った候補者である山崎有美と留美の母親、奈美の顔を見る。
奈美の表情が恐ろしいほど引きつっていることを確認した3人は、それぞれの予感が的中したことを覚る。あれは金髪の少女の正体は山崎有美か留美――あの華奢な身体つきから判断すると中3でソフトボール部のエースの有美ではなく、妹の留美に違いない。香織の嗜虐性を満たすための生け贄は、小椋家や加藤家だけでは決して十分でないことをのだ。
いや、もはや事態は香織一人の手から離れてしまっている。「かおり」の常連から始まって東中関係者、A工業高校関係者、そして自治会メンバたちがー次々に倒錯の狂宴に巻き込まれ、その渦はこのAニュータウン全体を覆うまでに拡大しつつあるのだ。
いずれニュータウンの全住民が嗜虐と被虐の二つの層に分かれ、性の奴隷制度が確立されるのではないかという空想めいたものさえ、昌子や摩耶たちの頭の中に湧き起こってくる。

ステージの上では金髪の少女が健一を追い落とすべく、夢中になって腰を振っている。少女は隣で囁きかける史織に頷き返しながら、健一を時に激しく追い込み、時に甘く焦らすように腰を使う。そんな姿は少女がたった今しがたまで処女であったことが信じられないほどである。
「うっ、ううっ……」
騎乗位になった少女の下で健一が呻き声を上げる。健一の絶頂が近いことを知った史織は、つま先で健一の横腹を蹴る。
「いきそうなの? 健一」
史織の問いに健一はガクガクと頷く。
「それならイカせてください、ってお願いするのよ。ほらっ」
「ううっ」
2歳も下の史織に足蹴にされた健一は屈辱に呻くが、もはや射精感は限界まで迫っている。健一は声を震わせながら「イカせて……イカせてください」と懇願する。
健一の惨めな敗北宣言を聞いた史織と、そして観客たちがどっと哄笑する。そんな嘲笑を浴びている健一の身体に、被虐の妖しい性感が走る。
秘奥に深々と呑み込んだ健一の肉棒がピクピクと痙攣するのを感じた金髪の少女――山崎留美は気が遠くなるほどの羞恥と同時に、魂まで蕩けるような快感を覚える。それは早熟の少女の中に生まれた禁断の欲望がはっきりと充足されたことによるものだったのかも知れない。留美はうっとりした表情になると「いいわ……」と口にする。

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