13.姉弟無残(1)

 村瀬美紀と千原絹代の依頼を受けた山崎が、再び静子夫人他美女たちの行方を追って行動を開始したころ、美紀の娘である村瀬小夜子は、素裸を堅く縛り上げられ、葉桜団の朱美とマリに田代屋敷の廊下を引き立てられていく。
村瀬小夜子は今年22歳。四谷で宝石店を経営する村瀬善吉の娘として生まれ、名門青葉学院を卒業、在学中に音楽コンクールのピアノ部門で1位、さらにミス宝石にも選ばれた才色兼備を絵に描いたような深窓の令嬢である。弟の村瀬文夫も青葉学院付属高校の3年で、ギリシア彫刻に生を与えればこうなるだろう、といった優美な美少年である。
しかしその美しい姉弟は森田組の罠に落ち、田代の地獄屋敷に誘拐されていた。
当初森田組は小夜子の誘拐により、村瀬宝石店から一千万円の身代金奪取の計画を立てていたが、金の受け渡しの現場に私立探偵の山崎と警察が張り込んでいることに気づき、這々の体で逃げ帰ったことがある。
それ以降小夜子と文夫の姉弟は、森田組が獲得し損なった身代金を自らの肉体で稼ぎ出すという苛酷な運命を強いられたのだ。
「静子が人工授精を受けることになったの」
「えっ……」
朱美の言葉を聞いた小夜子は、信じられないと言った表情をする。
「遠山夫人からのたっての依頼でね。千代夫人は静子が女奴隷としてここに幽閉されているだけじゃあどうにも不安みたいだわ。いつかは救い出されて、自分の今の地位が脅かされるんじゃないかと思っているみたい。それで静子が父親の分からない子供を生めば、さすがに二度と日の当たる場所には出てこれないと思ったのね」
朱美はそんな残酷な言葉をさらりと吐く。小夜子の顔は恐怖で強ばる。
「何も小夜子が赤ちゃんを生む訳じゃないんだから、そんな怖がらなくてもいいわよ」
マリはケラケラ笑いながら小夜子の尻をぴしゃりと叩く。
なんと恐ろしいことだろう――小夜子は千代の凄まじいばかりの執念に身体の震えが止まらない。確かに静子夫人に子供を生ませれば、あの優しい夫人のことだから父親が誰だか分からないとしても――いや、わからないからこそそんな子供を不憫に思い、人一倍慈しむことだろう。
そして、子供を人質に取られればどんな苛酷な要求も呑むに違いない。森田組は永遠の奴隷を手に入れたという訳だ。
「小夜子、あんたも赤ちゃんを産みたくなったらいつでも言うのよ。静子のように人工授精を受けさせて上げるわ」
マリが再び小夜子のヒップを叩くと、朱美が「みんなが腹ボテになったら、ショーに出演する奴隷がいなくなるわ」と苦笑する。
「静子が妊娠したら今までどおりショーに出演するという訳にはいかなくなるでしょう? それで、田代屋敷の奴隷にちょっとした人事異動が行われることになったのよ」
朱美にそんな風に話しかけられた小夜子は、怪訝そうな表情を見せる。
「小夜子もこれまで、静子夫人との師弟レズショーを売りにしたけれど、新しいショーの相手を見つけなければならないわ。それで今日は新しいショーのお相手を紹介してあげるわ」
朱美が、悲しげにうなだれている小夜子の顔を面白そうにのぞき込みながら言い渡す。
「小夜子も良く知っている相手よ。会ったらきっと驚くわよ」
小夜子はマリの思わせぶりの言葉に言い様のない無気味さを感じ、優美な裸身を慄わせて気弱な瞳を向ける。
朱美の言う通り小夜子は、日本舞踊の師匠である静子夫人とレズビアンのコンビを組まされたことがある。そのときの恐ろしさと背徳的な愉悦を小夜子は忘れることが出来ない。
その静子夫人はなんという運命か、この地獄屋敷で妊娠しショーの出演はしばらく控えざるを得ないというのだ。
それなら小夜子の相手は京子だろうか。以前、地獄屋敷の悪魔達からからかい半分にそんなアイデアを聞かされたことがある。弟の文夫と恋人の美津子のショーを前座として、その姉同士が倒錯的なレズビアンショーを演じる、という悪ふざけめいた趣向である。
いや、文夫は美津子とのコンビはすでに解消させられ、遠山家の令嬢、桂子と組まされている。小夜子は傷心の美津子をレズのシスターとして慰めるよう言われたことがある。それが今、実行されようというのか――。
もはやそんなことでは驚かない。小夜子は覚悟を決めてきっと顔を上げる。静子夫人の陥った苛酷な運命を思えば、自分の非運など何程のことがあろう。少なくともこの地獄屋敷の同じ屋根の下で、自らの守護神とも言うべき静子夫人と暮らして行けるのだ。
小夜子の頭の中には今や、かつての恋人である内村春雄のことはほとんど存在しなかった。静子夫人とのめくるめく愛の交歓に比べれば、内村との付き合いはなんと子供だましであったことか。
「さ、着いたわよ」
素裸の小夜子を引き立てて行った朱美とマリは、廊下の端の5坪ほどの広さの調教室に小夜子を連れ込む。
部屋の中央に3メートルほどの間隔をおいて天井の梁からぶらさげられた鎖の一つに、緊縛された裸の少年が縛りつけられている。
「おや、お姉ちゃんのご登場よ」
少年の前に立って、何やら耳元に吹き込んでいた銀子が振り向いた。
「ふ、文夫さんっ!」
素裸のまま柱に縛りつけられ、なにやら女たちのいたぶりを受けていた少年は弟の文夫であった。
「姉さんっ!」
文夫は悲痛な顔を姉の小夜子に向ける。
「あかん、全然元気になれへんわ」
文夫の前に座り込んでいた義子がお手上げといった風な恰好をする。
「手でしごいても、しゃぶってもびくともせえへん。若い癖に何や、だらしがないやないかっ!」
義子は文夫の引き締まった尻をパシンと平手打ちする。
「義子のやり方が悪いんじゃないの」
銀子がニヤニヤ笑いながら義子に声をかける。
「そんなことはあれへん、銀子姐さん」
義子がむきになって言い返す。
「このお兄ちゃん、使い過ぎなんや。男奴隷は文夫しかおらへんもんやさかい、昨日は美津子の尺八の練習代、今日は桂子と実演てな感じでおチンチンの休まる暇があらへん。おかげでインポになってしもたんや」
「まさか」
銀子は義子の言葉に吹き出す。
「まだ18のやりたい盛り。少々のことは平気よ。義子、マリと一緒に小夜子を隣の鎖に縛りつけて。文夫と向かい合わせにするのよ」
「よっしゃ」
義子とマリは小夜子を引きずるようにして、無理矢理に縄尻を鎖につなぎ止める。
改めて全裸の正面像を互いに晒しあった小夜子と文夫は、見てはならないものを見たように、ぶるっと身体を慄わせ、必死で顔を逸らせあう。
「眼をそらせるんじゃないよっ」
銀子が手に持った青竹でパシリと床を叩く。
強制された小夜子と文夫は、お互いの裸身に悲しげな目を向けあう。
姉の輝くような白い肌、むっちりと実った果実のような豊かな乳房、滑らかな腹部、指で押したような可憐な臍。そして何よりも淡く溶けるような繊毛に覆われたふっくらとした陰部。文夫は息苦しいまでに女っぽい姉の裸身を眼にして、肉体がどうしようもなく高ぶっていくのを浅ましく意識する。

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